茨城県古河市の介護老人保健施設で2020年、入所者2人に空気を注入し殺害したとして、殺人などの罪に問われた元職員で同市、赤間恵美被告(40)の裁判員裁判公判が21日、水戸地裁(山崎威裁判長)で開かれた。2人目の被害者とされる吉田節次さん=当時(76)=に関する論告で、検察側は「被告が犯人なのは明らか」と主張。弁護側は「何ら証明されていない」と改めて無罪を訴えた。 殺人の罪の審理は2件とも他殺かどうかの事件性と、被告による犯行かどうかの犯人性が争点。求刑は全ての審理を終えた6月18日に行われる。 起訴状によると、被告は同市の老健施設「けやきの舎(いえ)」で、同年5月30日に鈴木喜作さん=同(84)=に、同7月6日に吉田さんに、いずれも点滴用チューブにシリンジ(注射筒)をつないで空気を注入し、空気塞栓(そくせん)による急性循環不全で殺害したとされる。 検察側は論告で、「多数の間接事実を総合的に評価すれば、検察が主張する事実が存在したといえる」と主張。吉田さんの容体が急変する直前、被告がベッド脇で注射筒を動かしているのを施設職員が目撃し、施設内で見つかった注射筒には被告のDNA型と整合するものが付着していたと指摘した。 死因についても、司法解剖の所見や心不全の可能性を否定する専門家の証言から「ほかの原因で死亡した現実的可能性はない」と強調。動機に関しては「被告が語らない以上は不明」としつつ、職場への反感から犯行に及んだとの見方を示した。 一方、弁護側は「死因の確定は困難」とした解剖医の証言から「慢性心不全の増悪で死亡した可能性は排斥できない」と反論し、事件性を否定。体内の空気は致死量を大きく下回るため、検察の主張には「合理的な疑いが残る」と述べ、職員の証言に関しても「『注射筒をチューブに接続した』というものではなく、殺害行為の目撃証言ではない」と主張した。 赤間被告は意見陳述で「私は空気を注入していませんし、殺害していません」と無罪を主張した。 ■カメラ捜査も争点に 「行動確認、目的は正当」 「任意の限界超え、違法」 2人目の被害者とされる吉田節次さんに関する審理では、赤間恵美被告の逮捕前から設置したカメラ捜査の適法性や、この捜査に基づくDNA型鑑定の証拠能力も争点になった。 これまでの公判によると、県警は被告の行動確認のため、吉田さんが亡くなった10日後の2020年7月16日、被告のアパート近くにカメラを取り付けた。撮影は被告が別件で逮捕された翌日の21年11月22日まで約1年4カ月続いた。 検察側は撮影の目的について、被告の交友関係や動機の解明に加え、証拠物と被告のDNA型を調べる上で被告のごみを収集する必要があったと説明。撮影範囲もアパート外観やごみ置き場などに限られ「目的は正当で設置状況も妥当だった」と適法性を主張した。 弁護側はプライバシーの侵害を主張し、「長期間、明らかに無関係な人物も撮影していた。任意捜査の限界を超えており違法だ」と反論。被告が捨てた生理用品から採取した血液のDNA型鑑定結果は「証拠能力がなく証拠から排除すべき」と改めて訴えた。 弁護側は18日の審理でこの鑑定結果を証拠から除くよう求めたが、裁判長は異議を棄却し、証拠として採用された。