【未解決事件】世田谷一家殺害事件の犯人は30代か…最新DNA解析で犯行時の年齢推定

2000年の大みそかに幼い子ども2人を含む一家4人が惨殺された世田谷一家殺害事件で、現場に残された犯人のDNAを警視庁が専門の研究機関で解析した結果、犯人の犯行時の推定年齢が「30代」との結果が出ていたことがわかった。 これまで公表されてきた推定年齢より犯人が年上である可能性が出てきた。新たにわかった推定年齢によると、犯人は現在50代から60代ということになる。 ◆DNA解析で浮かび上がる新たな犯人像 警視庁は2018年5月、犯人が現場に残したマフラーやヒップバックから推測される腰まわりの細さなどから、推定年齢は「15歳〜20代」だと発表。犯行は10代の少年を含む「若い男」によるものと思われてきた。 しかし最新のDNA解析では、人の年齢、罹りやすい疾患、体質までわかるようになり、犯人の犯行時の推定年齢が「30代」との結果が出たのだ。 最新技術では、DNAの「メチル化」を解析することで人の年齢がかなりの精度で推測できる。 人が年齢を重ねると遺伝子の一部に炭素と水素で構成される「メチル基」と呼ばれるものが着く。「メチル基」が着いた遺伝子はスイッチがオフになった状態になり働かなくなる。これは遺伝子の「メチル化」と呼ばれる。 加齢によって「メチル化」した遺伝子が増える特定のDNAの領域が判っていることから、その領域にある遺伝子の「メチル化」の進み具合を測ることで年齢が推測できるという仕組みだ。研究機関であれば3日〜5日程度で解析ができるこの解析方法について、遺伝学の専門家は「誤差はプラスマイナス2、3年とかなりの高い精度」だと話す。 警視庁の捜査員は「犯人は30代でも違和感はない」としたうえで、「現場に残された犯人のものとみられる服やヒップバックは若者風であることから、10代や20代と思われているが、それが犯人がいつも身に着けていたものか、犯人が自分で買ったものかもわからない」と明かした。 ◆DNAで民族を推定 世田谷一家殺害事件のDNA解析では、これまでに民族の推定も行われている。最新のデータに照らし合わせると、犯人の父親のルーツは日本よりも中国や韓国の可能性が高く、母親のルーツはこれまで言われてきたアドリア海周辺国に加えてUAE=アラブ首長国連邦やアゼルバイジャンなどコーカサス地方の可能性があるとの結果も新たに判明している。 こういった解析は様々な事件捜査で活用されている。元東海大学客員教授の水口清氏は「日本人か否かといった対象者の出身地を推定することで、捜査の参考にしたいというケースも増えてきている」と話す。 また、別の研究者は、強盗や窃盗事件などについて、捜査の水面下で警察からの依頼を受け、犯人のDNA解析を頻繁に行ってきたと明かす。 ある事件では犯人が父親から受け継ぐ父系遺伝子(Y染色体)が日本人にいない型の「R系統」であることを割り出し、母親から受け継ぐ母系遺伝子(ミトコンドリア)が韓国や中国などのアジア系であったことから「犯人は外国人の可能性が高い」と結論付けたことで犯人の特定に役立ったという。 ◆乳児の父系遺伝子から犯人特定 解決の決め手はDNA ある警視庁の元幹部も、近年進化してきたDNA解析技術が事件解決の大きな一助になっていると話す。 2019年11月、港区の公園で生後間もない女の赤ちゃんの遺体が見つかった事件では、赤ちゃんの口にはトイレットペーパーが詰められていて、死因は窒息死だった。 周辺に防犯カメラが少なく、捜査は難航した。手がかりが乏しいなか状況を打開したのは水面下で行われたDNA捜査だった。警視庁は赤ちゃんのDNAから父系遺伝子と母系遺伝子をそれぞれ検出。母系遺伝子は犯罪者のDNAデータベースで一致しなかった。しかし、父系遺伝子が逮捕歴を持つ男と一致した。 これにより、警視庁がこの男から話を聴き、犯人である母親の特定に成功したという。元幹部は「数十年前であればこういったDNA解析は不可能で、この事件も迷宮入りしていた」と話し、進化した科学技術が事件解決の重要な鍵になっていることを強調した。警視庁の元幹部は、現状水面下の限られた範囲でしかできないDNA捜査の範囲をアメリカで行われているように拡げるべきだと指摘している。 ◆専門家「日本はDNA活用の原則が必要」 2000年6月にアメリカのビル・クリントン大統領(当時)はホワイトハウスで会見を行い、国際研究プロジェクトによってヒトゲノム(人間の全遺伝情報)の解読が完了したと発表した。 クリントン大統領は「新たなゲノム科学とその利点をすべての人たちの生活をより良いものにしていくために活用しなければならない」とした上で、DNA情報を扱うことはプライバシーや倫理の懸念があると指摘し、「遺伝子情報によって個人などが差別されることがあってはならない」と宣言した。 それから25年、アメリカでは今、州法で規制している州を除き、DNA解析から犯人の似顔絵作成するほか、親族を割り出すなど、警察の捜査に活用されている。 DNA解析を行う米・バージニア州の企業によると、これまでに345件以上もの未解決事件がDNA捜査によって解決したという。 一方、日本ではDNAの扱いについて定める法律はなく、警察庁は「身体的特徴や病気に関する情報を含む部分は使用しない」としているため、犯人の似顔絵を作成することなどは許されていない。 国内のある遺伝学専門家は、日本でも似顔絵作成などDNAを活用した捜査を「導入すべき」と話したうえで、「DNAについて、日本は社会原則が足りていない。日本には研究するうえでの指針はあるが、社会原則としてDNAの活用を宣言すべき。個人情報が守られ、差別されなければ凶悪事件解決にDNAは活用されるべきだ。」と訴える。 また、警視庁のある元幹部は、「長期未解決事件の解決にはDNAしかない」と強調したうえで、「DNAから犯人の似顔絵を作る技術を日本でも研究し、捜査資料として活用できるようにすべき。これをやることが世の中から非難されるはずがない。外国人も増え、人口減少で警察官の数も減っている。捜査の効率を上げるためにもDNA捜査は必要だ」と語気を強めた。 DNA捜査を導入して犯人を特定し、無残に命を奪われた多くの被害者・遺族の無念を晴らすことが期待される。 (執筆:フジテレビ社会部記者 林英美、フジテレビ解説委員 上法玄)

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