米国で未成年者人身売買などの罪で起訴され、2019年に収監中に死亡した金融実業家ジェフリー・エプスタイン(Jeffrey Epstein)氏が、2010年代後半に暗号資産(仮想通貨)政策や税制をめぐる議論に関与していたことが、米議会が公開した新たなメール群から明らかになった。「ディクリプト(Decrypt)」などのメディアが報じている。 報道によれば、2018年2月のメールでエプスタイン氏は、ドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領のかつての腹心で、元首席戦略官であるスティーブ・バノン(Steve Bannon)氏に対し、暗号資産の政策・税制について米国財務省から回答を得る能力について尋ねている。 エプスタイン氏は、「財務省は暗号資産についてあなたに返答をするのでしょうか、それとも私たちは別の方法でアドバイスを得る必要があるのでしょうか」とバノン氏に質問しており、バノン氏は「その件は財務省ではなく国家安全保障会議(NSC)、つまり国家安全保障会議によって連邦レベルで検討されている」と返信している。 さらに2018年4月付の別の関係者とのやり取りでは、エプスタイン氏がデジタル資産市場の拡大に関心を示す様子もうかがえる。 やり取りの中でエプスタイン氏は「暗号資産は面白い、皆が参入したがっている」と述べ、その直後には、「だが財務省にはテロ資金対策局があり、課税について検討している」と返信している。 また、先月公開された別のメールでエプスタイン氏は、バノン氏に対して「財務省が暗号資産の実現利益に関する自主申告フォームを作成し、悪党どもを全員潰すべきだ」と提案していたという。 これらの公開されたやり取りからは、エプスタイン氏が、米政府が暗号資産に対する立場を明確にするよりも前の段階から、その規制動向に強い関心と懸念を示していたことが明らかになった。 ●暗号資産領域に強い関心示す 実際、公開された2万通超のやり取りの中には、暗号資産に関する話が何度も登場し、エプスタイン氏はトランプ政権の最初の任期中に暗号資産の規制を推し進めようとしていたことが確認された。 2018年9月のメッセージでエプスタイン氏は、「暗号資産はインターネットのように国際協定で枠組みを設けるべきだ。さもなければ法の外のポンジ・スキームになる」と記しているという。 また、逮捕の約2週間前にあたる2019年6月に送信されたメッセージでは、エプスタイン氏が当時Facebook(現Meta)が主導していたステーブルコイン計画「Libra(リブラ)」を強く批判していたことも判明した。 エプスタイン氏は「リブラは通貨(currency)ではない!金(money)だ。間違った手に渡れば金融システムを壊しかねない」と述べ、「だから私は関わらなかった」と断言している。 これがリブラ特有の懸念だったのか、あるいはステーブルコイン全般への批判だったのかは不明だ。 報道では、ディクリプトがリブラ共同創設者デイビッド・マーカス(David Marcus)氏に対し、エプスタイン氏から投資関心を示されたか否かについて問い合わせたが、回答は得られなかったという。 さらに別のメールでは、ステーブルコイン発行企業テザー(Tether)の共同創業者ブロック・ピアース(Brock Pierce)氏が2015年3月以前に、エプスタイン氏のマンハッタンの自宅で元米財務長官ラリー・サマーズ(Larry Summers)氏と面会し、ビットコイン(BTC)について話し合ったことが明らかになった。 当時ピアース氏は「自分はビットコインへの最も活発な投資家だ」と自己紹介し、サマーズ氏は、資金を失った場合の名声を損ねるリスクを懸念しながらもビットコインへの投資機会に興味を示していたという。 なお、ピアース氏もサマーズ氏もこれら報道に対するコメント要請には応じていない。 また報道によると、この会合とほぼ同時期に、エプスタイン氏のスケジュールには、ペイパル(PayPal)共同創業者ピーター・ティール(Peter Thiel)氏との面会予定も記載されていたという。 これら一連のメールからは、エプスタイン氏が単なる投資家ではなく、2010年代の暗号資産税制・規制の初期議論に直接関心を持ち、バノン氏ら政治・経済界の有力者を通じて影響を及ぼそうとしていたことを示唆している。 2019年、未成年者への性的搾取などの容疑で起訴されたエプスタイン氏は、同年8月10日にニューヨーク市マンハッタンの連邦拘置所「メトロポリタン・コレクショナル・センター(MCC)」内で収監中に自ら命を絶った。同氏の死後もその財務実態や投資関係は依然として多くの点が解明されていないが、今回の文書は、同氏が暗号資産黎明期の水面下で政策に接近していたことを示す新たな証拠となっている。