2022年7月に安倍晋三元首相が銃撃され死亡した事件で、殺人などの罪に問われた山上徹也被告(45)が28日、奈良地裁(田中伸一裁判長)で開かれた裁判員裁判の初公判で「私のしたことに間違いありません」と起訴内容を認めた。 法廷に現れた山上被告は黒の上下のスエットで、腰まで伸びた白髪交じりの髪を後ろで束ねていた。逮捕時とは大きく変わった風貌に、傍聴席は息をのむような空気感に包まれた。証言台に立ち、氏名を尋ねられると「山上徹也です」と答えたが、ほとんど聞き取れない声。「マイクに近づいて話してください」と裁判長に促され、ようやく名前、職業などが傍聴席に届いた。 終始うつむき加減で、公判中はほとんど身じろぎすることもなかった。ただ、検察側が証拠として法廷で映し出した動画には反応。被告が空き地で手製のパイプ銃を試し打ちする場面が再生されると頭を少し抱え、表情は暗さを増した。 冒頭陳述で弁護側は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信した被告の母が総額1億円を献金した結果「人生を翻弄(ほんろう)され、教団への復讐(ふくしゅう)心を強めた」と主張。成育環境が被告の性格や行動に影響を与えたとして情状酌量を求めた。起訴内容の一部である銃刀法違反の「発射罪」などについては、被告の手製銃は拳銃等には当たらないとして無罪を主張した。検察側は「我が国の戦後史において前例を見ない重大な結果をもたらした」と、不遇な生い立ちが刑を軽減するものではないと述べた。 地裁周辺は厳重な警備体制が敷かれた。約50人の警察官が敷地内外で警戒し、午後2時の開廷前には地裁周辺の交通も規制された。また、この日は他の裁判も行われなかった。傍聴人のボディーチェックも入念で、腕時計や財布に加え、ペンさえも持ち込み禁止で、希望者には裁判所がボールペンを貸与した。23年に裁判の進行を協議する公判前整理手続きが行われた際、不審な段ボール箱が届き中止となった経緯もあり、不測の事態に備えての厳戒態勢だった。 公判は予備日を含め最大19回開かれ被告人質問は5回の予定で、12月18日に結審する。判決は来年1月21日に言い渡される。